叩いた石橋
ご主人を亡くされた後、本当に色々なことがあったそうです。
すっかり自信を無くされ、それが言葉の端々に現れます。
若い頃の話、洋裁が得意だった話、娘様の洋服を作られていた話
沢山のお話をして下さいますが、最後には
「もうあの頃と別の人間になってしまったから」
という言葉が続きます。
そんな彼女と取り組んでいたのはレザーのコートの解体
それは素早く、そして丁寧で。
そこで解体したコートからポーチを作る提案をしてみました
「私はもうできない」
彼女の第一声でした。
それから2ヶ月
解体が終わったコートを何度も手に取る彼女に
しつけだけでもしてみないかとお話ししました。
「しつけだけですよ」と笑って取り組まれた後、彼女からでた言葉
「ここまできたら縫ってみようかしら。できないかもしれないけど」
失敗したくない葛藤の中踏み出した勇気に心が震えました。
写真はミシンをかける前に何度も試し縫いした布の一枚
横に座る僕に何度も何度もミシンの使い方を確認しながら。
ポーチはまだできていません。
何度も縫ってはほどきを繰り返し、自身が納得のいくゴールを探します。
それでいいのです。
僕は「ポーチ」を求めてはいません。ポーチは副産物です。
不安で、自信がなくて、あの頃と別人になってしまったと話す彼女が
踏み出した一歩が何度も行なった試し縫いなんです。
気長に彼女のペースで続けていければいいなあと。
そして最後にセラピストの存在が消えていくことを望んでいます。